最近見た映画

  もどる     新規投稿     トピック表示     次の10件     前の10件  

【3551】「人情噺の福団治」(伊藤 有紀監督、2016年) 田中 忍
メール tnk@orange.ocn.ne.jp 
URL  

 本作はドキュメンタリー映画であるが、劇映画を観たという感じになる。桂福団治という落語家の人柄・生き方が伝わり、福団治の落語を一度聞いてみたい気持ちにもなる。

 福団治は三重県四日市市の出身で、若かりし頃、村野鐵太郎監督作品「鬼の詩」(1975年、ATG)に出演したことを知っている。俳優をする程の才能を持った福団治が、その後、TV出演もあまりなく、騒がれることもなく、私の中では「存命なのか?」と思っていた。
が、現実は、関西演芸協会会長、日本手話落語協会会長などを務める重鎮である。本作の宣伝チラシには「日の当たらない、しかしながら名人的に上手い芸人。そんな生き方がすきやねん。」と、福団治は語っている。本作ではまさに、「そんな生き方」が描かれている。

 落語の世界を全く知らない私だが、当然、福団治も最初はある師匠の弟子につく。やがて、自らも弟子を持ち、その弟子も弟子を持つ。という繰り返しが続く。福団治は先輩や同業者に気を配ったり、舞台づくりを一緒になってやるし、頭ごなしに弟子を叱りつけないというプレイングマネージャーを70代半ばいう年齢になっても、務めていることに頭が下がる。自らの感情をコントロールできる方なのだろう。器が大きい。経済人においても、このような方はたくさんいて、業種は違うが、我々サラリーマン世界と同様な部分もあるのだなと理解できた。また、弟子が師匠を敬う。弟子は師匠の前に出ない。というような落語の世界のしきたりが垣間見れ、私の背筋は少し伸びた。

 福団治の素顔も描かれる。妻子がいる。順風満帆ではなかったように思える。しかし、今は妻を愛し、やんちゃだった息子の将来を気にする姿は、非常に身近に感じる。特に、
その息子が福団治のことを「こう語っていました」と伝えた時、福団治の表情が、ふと変わるあたりは、親のひとりとして共感する部分で、目頭が熱くなる。

 落語における「人情噺」とは、ウィキィペディアによると、「親子や夫婦など、人間の情愛を描いた噺」をいうとのことで、本作は「人情噺を語る福団治の人情噺」という映画である。

 伊藤有紀監督は、三重県桑名市の出身であり、本作が2作目にあたる。1作目「まちや紳士録」を拝見していないので、比較や関連などができないのだが、本作から感じ取れるのは「映画作家としてのドキュメンタリー作りをしている」ところ。

 最近の日本映画のドキュメンタリーはテレビのドキュメンタリー手法をそのままにしている気がする。見る者が理解しやすく、説明も多い。それはそれでいいのであるが、本作のように観客に想像させる部分があってよい。確かにこの写真は何かとか、なぜここのタイミングでインサートされているのかと思う時があるが、観客の脳裏に入り込んでいるので、「なるほど、あれはこうだったのか」と想像ができる。本作が71分という時間なのも、あえて説明を省き、つまりぜい肉をそぎ落としたものと言えよう。

 また伊藤監督は「土足で他人の人生に足を踏み入れない」スタンスであることも感じ取れた。福団治が存命であり、福団治の生き方を敬うべく描くものであるから、福団治から「ここは撮らないで欲しい。この人の顔は正面から映さないで欲しい」と言われている点もあると思われ、福団治との打合せも多かったであろう。しかし、福団治の生き方を撮影させたことは、福団治の伊藤監督への信頼であろうし、息子のような年齢の伊藤監督への励ましであったと思う。

 福団治の生き方は、彼の落語の肥やしになっているだろう。また彼の人生経験をベースに、目や口に身体障害を持つ方々も落語に親しむことができるようになったことは、非常に大きい足跡である。社会のために皆のためにやっている姿は、誰かが見ている。そう、日が当たらなくても、「お天道様はちゃんと見ている」のである。ラストシーンの福団治の笑顔は円熟した人間味あふれるもので、70数年生きてきた人間の輝きを放っている。

 本作には、私の知人の芸能史研究家・前田憲司氏(三重県在住)も出演、映像提供が三重テレビと、三重県ゆかりの作品になっているのも嬉しかった。伊藤監督は、今、福岡県八女市を活動拠点とされているが、いつか、三重県で撮影をして欲しいと願っている。

 本作は、名古屋シネマスコーレで6月24日から上映。いわゆる、食べず嫌いにならず、是非、ご覧ください。
詳しくは伊藤監督の個人事務所のホームページでご確認ください。
http://d.hatena.ne.jp/ARIGATO0814/

修正する
投稿日 2017/6/13 (Tue) 22:35:24
更新日 2017/6/13 (Tue) 22:35:24
 


■【3551】へ返信
名前
E-Mail
題名
URL
削除キー sage機能 ←削除キーは投稿内容を修正/削除する時に必要です

  もどる     新規投稿     トピック表示     次の10件     前の10件  

No.Password

Copyright:(C) 2004 三重映画フェスティバル実行委員会. All Rights Reserved.
Wing Multi BBS Pro 1.1.4