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2016/06/16 ようこそ神去村へ!
 「函館は伊賀と似ている」・・・2014年5月31日、
「そこのみにて光輝く」のジストシネマ伊賀上野での上映スタートに合わせて、伊賀市出身の呉美保監督の舞台挨拶が開催されました。その壇上で、呉監督はこう仰いました。

 「そこのみにて光輝く」は、1989年に発表された佐藤泰志の唯一の長編小説を呉美保監督が映画化した作品で、北海道・函館を舞台に退廃的に生きている男女とその家族、関わりゆく人々の物語です。空洞のような生き方をしつつも、はかなく愛を貫こうとする主人公・達夫を綾野剛、心も身体も捨て、深い悲しみの中で生きながらも、達夫に惹かれゆくヒロイン・千夏を池脇千鶴が演じており、北海道・函館のロケーションとも相まって、乾いた日常の中で生き苦しくも歩んでいく人間像が強烈に描かれていきます。

 呉監督といえば、デビュー作「酒井家のしあわせ」や「オカンの嫁入り」など、女性を主人公に据え、日常生活の中で巻き起こる家族内での騒動をユーモラスに明るく暖かく描いていく作風が印象的だっただけに、今回の「そこのみにて光輝く」は、呉監督の作品としてはちょっと意外なテーマでした。ところが上映スタートして間もなく、そんな意外な印象は間違いだったと気付きました。物語は全体に重く、登場人物たちの息苦しささえ感じる雰囲気なのですが、彼らを取り巻く街が紛れもなく生きているのです。どこか遠い世界の物語ではない、現実に生きている人々の様々な心の動き、苦しみ、悲しみ、そして少しの希望。それらは登場人物の息遣いであり、しっかりと受け止める街の姿に投影されているように感じました。呉監督の登場人物と街の姿の描き方は、変わらぬものであることを確信しました。

 そんな呉監督が映像作品に映し出す街の風景、それこそが伊賀の街であり、どんなジャンルの作品であっても、呉監督がのぞくカメラの先にある風景は、監督の心の中にあるふるさとが見えているのでしょう。





 呉監督が、生まれ育ったふるさとの風景を今もなお自身の作品の中に映し出しているということは、我々ふるさとの観客にとってこれほど嬉しいことはありません。そして呉監督は、地元の映画館が自分の作品を上映してくれることを誇りに思っているとも話してくれました。地域の中で、作り手と受け手の距離がますます縮まる・・・これも映画の醍醐味といえますね。

 これからも、呉美保監督作品の中にあるふるさとを追いかけ続けたいと思います。
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