TOP>三重映画さんぽ>映画『潮騒』のロケ地・神島を想う 前田 憲司
新治と初江が抱き合うクライマックスシーンの舞台となる監的哨。今も当時のままに残る旧軍事施設 「歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である。」三島由紀夫の「潮騒」に描かれる歌島のモデルは伊勢湾口に浮かぶ神島。青山京子・吉永小百合・小野里みどり・山口百恵・堀ちえみをヒロインに、過去に5度映画化され、いずれも神島でロケが行われた。

 第1作から数えて50年目、翌年は最終作から20年目という平成16年6月に、潮騒の島「神島」を訪ねた。

 「潮騒」は、海女・宮田初江と漁師・久保新治の純愛物語。三島は昭和28年に二度、神島を訪れ、当時の漁業組合長寺田宗一宅に逗留した。初江のモデルといわれているのが、寺田家に嫁いできたばかりだった寺田こまつさん。航海中の船が台風に巻きこまれ、新治が荒れ狂う海中に飛び込み繋船するラストシーンは、こまつさんの亡夫和弥さんの実体験らしいと聞いた。

 島にはハイキングコースが整備され、港から寺田家前、八代神社、灯台、監的哨跡、ニワの浜、古里の浜など、潮騒ゆかりの場所を1時間ほどで歩くことができる。まさにこの地こそ、その時々に輝いていたスターたちが、歩き、カメラアングルに応えた場所だ。

 島の人たちは気さくに話しかけてくれた。映画「潮騒」を訊ねて島に来たと言うと、詳しい人がいるよと教えられた。小久保梅三郎さんは、第5作のエンドロールに「現地指導」として名前が登場する方だった。

 ここで、ふと思った。神島には小久保姓も寺田姓も多い。三島が小久保と寺田をヒントに、主人公に久保新治、宮田初江と名付けたと思うのは、勘ぐりすぎだろうか。

 全作に関わってこられたという小久保さん宅を訪ねると、奥さんの時子さんが、資料を出してきてくれた。スナップ写真や俳優・関係者のサイン帖、台本。「吉永小百合や堀ちえみは気さくな感じやったけど、山口百恵はガードが固かったなぁ」と、ロケにまつわる色々なエピソードが次から次に。「島の者にとっては、便利になりましたが、この20年で景色はずいぶん変わりました」と梅三郎さん。

 八代神社の本殿は鉄筋コンクリート製に建て替えられた。浜には、消波ブロックが。港は近代的に。浜遊びができなくなった子どもたちのために海岸にはプールもある。奇観を成した老松はほとんど姿を消した。家々は現代的な建物に。切り立った斜面は、マスクメロンのようにコンクリート材で補強されている。…。

 その後、梅三郎さんは亡くなられたと聞く。体験も証言も、みんな彼岸に持っていかれたと思うと、見せていただいたあの資料だけは映画「潮騒」の“証”として、神島にいつまでも留まってほしいと願う。

 6作目の『潮騒』映画化をという動きもあると聞く。実現したとして、この島でロケが行われるかを気にかけながら、神島を想う。

*2004年4月から2006年3月まで毎日新聞三重県版にて掲載した「三重映画ものがたり」を加筆修正したものです。

「潮騒」第2作(日活 森永健次郎監督 1954年4月)のロケ終了時に島民とスタッフで撮った記念写真。前列右から3人目が小久保梅三郎さん。吉永小百合・浜田光夫・清川虹子らがみえる。(小久保さん提供)
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